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鳴き声

2017.06.09

詩/岩見十夢

かえるの置物を手に取った二歳児が
その顔をしばらく眺めたあと
グオーグオーと
かえるの声を模していた
彼は本物のかえるを見たことがなく
鳴き声も聞いたことがなかった
ゲロゲロクワックワッだよと伝えるも
グオーグオーと鳴いていた

わたしは
もう十数年来の連合いである
陶製のかえるの鳴き声を
初めて聞いた

野菜サンド山脈

2017.07.05

詩/佐藤佑紀

ふらっと入った喫茶店
ギラギラシャンデリアとどっしりソファ

おじいさんとおじいさんとおばあさんと
アイスコーヒーにたっぷりガムシロップ
もうそれはガムシロップティーだ
政治について討論会してた

お腹が空いてた私は とりあえず
サンドウィッチドリンクセット
昼間の喫茶店あるあるオーダー

なんとなく一番上にあった野菜サンド

侮っちゃいけない
出てきたのは四つの山脈 立派なやつ

あー 絶景

薄めにスライスされたパンの中に
トマトとシャキシャキキュウリ
調和しすぎて優しすぎて
ありがとうお母さん的ドレッシング

一瞬でその山脈を飲み込んだ
あっつあつのコーヒーと一緒に

ありがとう野菜サンド山脈
また来るね野菜サンド山脈

ビオトープ

2017.08.04

詩/草間小鳥子

夜をわたるように降りおえた雨のなごりは
ふるえながらひさしにつらなり
だんだんに明るんできた庭の
枯れ木は音をあげずに冴えてはいたが
蛇口は未だ眠っている
しずけさとも呼ばれる旋律をまとい
そこにいることが
ふと、わかった

舞い降りるようにあらわれていた
ゆきかうおわりとはじまりが
稀に、ひたり、と気をゆるめる
ほんの一瞬のすきをついて

うすがけをはねのけ、おどり出る
刈ったばかりの芝が
はだしの足にちくちくとさわぎ
けれどすぐ
水を打ったようにしんと凪いだ
ゆびさき、あしさき、頭のてっぺん
あまねく末端から発芽するようにほどけ
わたしはきっといま
あるはずのない気流
会いにゆくよ
あの坂道をおりてくる
まあたらしい陽ざしにふれたならば
たちまちに昇華してしまうから

忘れえぬ悔しさをかきわけ
晴れた朝のため息
くたびれた夜の曖昧な相づち
二度と目覚めるまいと眠りにつきながら
にぎやかなひかりにうすがけを剥がされ
ついほほえんでしまうこのごろ
おぼろげになってゆく輪郭——

すました耳が声に触れ
触れたそばからこぼれてしまった

陽射しに濡れた庭
刈ったばかりの芝が
はだしの足にちくちくとさわぐ
明けきった空をあおげば
枯れ木のてっぺんからほとばしる新芽

——もういいんだ

かすかにそよぎ
気づけばうすがけは風化していた
芽を吹いたからには
枯れ木と呼ぶのはよして
寝呆けた蛇口から水をくみ根方にそそぐ
芽が出たからには
きっと花も咲くだろう
そしてそう遠くないいつか
土に還る

——おはようございます

坂道を駆けおりざま
誰かが朝のあいさつを放っていった
はっとふり向き

——あなたひょっとして、風でしょう?

問いかけてみたところで
ただ
奇跡のように迎えるふたたびの朝が
燦燦といま
はじまってゆくだけ

女友達

2017.09.04

詩/Hanesana

女の子たちは ときどきわたしを呼び出す
「あなたは太陽で、わたしは月なの」

どうしてそんなことを言うのだろう
そんなことを言われたら 泣けなくなるじゃないか

お弁当箱をのぞいて
今度包丁の持ち方教えてあげるよ、と笑う
男だったら恋人にしたかった、と笑う

そんなときに返すちょうどいい言葉を
すらすら言える自分がいやになる

わたしだって 本当は月がいい

もう友達はいらないから
わたしを月だと言ってくれる人がほしい

ベントの糸

2017.10.02

詩/砺波湊

ベント、というらしい
上着の裾の切れ込みにも名前があって
センターベントとか サイドベントとか呼ぶんだって

ときどき そのベントに
細くてちいさなバツ印を見つけることがある

電車を待っているとき
前に並んでいる人のコートの裾にあったり
エスカレーターで二段上にいる人のジャケットの裾に
ちょこんと載っていたりする

ひょろりとしたバッテンの正体はしつけ糸で、
売っている間に、ベントが広がらないように縫われたのを
買ったときのまま、うっかり糸を切らずに着ているらしい

しつけ糸のバツ印を見つけると
何だかちょっと嬉しくなる

細くて、よわっちくて、へにょへにょなバッテンが
服の持ち主の目を逃れながら
胸を、じゃなくて糸のからだを伸ばして
今日も街を行き交っている

train

2017.11.01

詩/紅玉

しろいしろい駅のホームで
小さなかたまりが ひとつ
うずくまって泣いている
気づかない振りで電車に乗った
空は馬鹿みたいに晴れていた

うらおもてなんて
作れないくらいの薄っぺらさで
それでも生きていく私
透けた体内でうごめく赤いものを
死ぬまで煩わしく思うんだろう

えんじ色のワンマン電車
古ぼけた席に座り
古ぼけた町を抜ける
思い出せないでいる何かが
まつ毛の先を掠めていく

本当は分かっているんだ
私には何もないことを
いつか藻掻くことも忘れて
なるようになったというだけの

シートと背もたれの隙間に
はさまっていた白の紙
ふうせんに折って窓に投げた
吊り上げられるみたいに飛んでいく
……ひとりで生きていけたらなあ

こころは心臓にないのに
なぜ痛むのか分かる気がして
帰ろう、と思った
あおい日だまりが頬に落ちる
空は馬鹿みたいに晴れている

椅子の座り方

2017.12.01

詩/元ヤマサキ深ふゆ

おばあちゃんの顔を知りません
会ったことも ありません

私が生まれる ずっとずっと前
突然の病でお母さんのまま
突然に亡くなったと聞きました

私の癖は 椅子の上で かく胡坐
なんとなく楽で
お母さんには何度となく
注意されてきたけれど
気が付いたら、あ、また、つい

38年が経ちました
祖母の顔は相変わらず
ピントのぼやけた写真で見た限りのまま

ある日のこと
やっぱり胡坐をかいたまま
「いや、楽なんだよね」なんて
電話で話していた時に
おばあちゃんは椅子で正座をする癖があった

おばあちゃんの娘から初めて教わって

びっくり
というか
不思議
というか

だけど

「あんたもせめて正座にしなさい」

すっかりおばあちゃんになった母が笑う

会ったこと なくて
会いたい とかも
申し訳ないけど
よくわからなくて
ずっとずっと知らないままで

会いたくても会えない らしいことは
ずっと 教わり続けてきていたから
そういうものだと 思っていた、から

会いたい、とかの前に
そういうものだと 覚えたから
会いたい、とかの前に
会いたくても会えない人なんだと
分からないけど 呑み込んだから

会いたい、とか
会いたくない、とかの前に。

だから

いないひとだったのに

いつの間に

会う間もなく受け継いでいた
しかも、なんで、それ? というか
なんで、そこ? というか

見てもいないのに

だけど

受け継いでいたこと
会ったこともなくて
会いたくても会えない人の
見たこともない、少し妙な癖
それを

私が受け継いでいたこと

だから
なんだか
そういうご縁に

今日も胡坐でひとり 苦笑い

ひ孫の顔は見せられないから
これで勘弁してね
おばあちゃん

いえないことについて
考えてみた

2018.01.12

詩/セロリン

年齢が重なってくると
いえないことが増えてきた
だんだんと
増えてきた
うーん
そうなんだよなあ
それはねえ
そうねえ
そうなんだよなあ
いえないんだよなあ
ごめんねえ
いえなくて。

いえない。
いえないんです。
いえません。

でも
でもでも
時間がたつと
いえるかも
と、思ったりもする。

そうだ
きっと
そうに違いない

でも
でもやっぱり
でもでもやっぱり
いえない。

思い出した。
いいたくないことは
いわなくていいんだよ。
そういっていた人のことを
思い出した。
そうか
そうなのか
そうだったのか
いわなくてもいいんだ
よかった。

みなさま
いわなくて
よくなりました。

皆紅

2018.02.05

詩/葦田不見

親は子に
受験生はノートに
あの子は袖口に
街は下水に
木は枝に
空は夕刻に

皆、紅を引く

オーライ オーライ

2018.03.02

詩/なみか

新しいマンションの前
トラックが止まる

オーライオーライ 私の暮らし
がらんとしたあの部屋で終わり
がらんとしたこの部屋でまた始まる

運び込まれたダンボールを解いて
それぞれをそれぞれの定位置へ

本棚の1段目 好きな小説 漫画
洋服ダンス キャミソールをしのばせ
押入れの高いところ 今必要でないもの

その時 スノードームが
伸ばした手から滑り落ち
ぴしゃんと床へ 雪が降り止んだ

お気に入りだったのにな
思い出 とかじゃなくても
掃除機の中 カラカラ回る
冬が回れば ここは春でしたね

あの日々たちが
ひとつずつ消えゆくとも
季節はカラカラ
この日々の中 回り続ける

1日かけて完成させた部屋
点けっぱなしのテレビ
ベッドで眠れば 朝が来て
ねえ 日当たりは良好すぎたよ
不動産屋 眼鏡のお兄さん

オーライ オーライ 私の暮らし
明日も明後日もずっと
この部屋に帰って来さえすれば良い

オーライオーライ 私の暮らし
後ろ向きには気をつけて
東京での日々を これから生きていく

あたらしい音

2018.04.09

詩/大江 麻衣

なんだ、毎日はあたらしい音だったと気づいて
目覚めた
誰かにあわせて言葉も服装も変えることのできた体のやわらかさ
でも、起きたら月島くんのことは忘れていた
取り出した思い出の順序はわからない
何も書かれていなかった
声は劣化して消えた

はじめて習うひらがなは一筆で書けるものから
「つくし」が書けるようになった、と報告
字で表わせたときのよろこび
それに相当するものは いまはなく
何のメタファーでもないつくし
そんなものはもう書けず なにを書いても陳腐な変換をされ
広い世界のことを わたしの狭い世界にしか当てはめられず
はじめて人の子をかわいいと思った
これから世界をあらわすことのできるものを
いつまでも「もっと丁寧に書きましょう」と言われるが
丁寧は世界ではなく 優しさ
書くのをやめたらあたらしい音で肺をいっぱいにする
速報やサイレンに怯える弱い耳でも 耳に入る音
すべて丁寧に聞くから
習おうとするから
遠くなっても 耳を澄ます

ゴム製のあひる

2018.05.09

詩/ゆとり

あんまり恋に疲れてしまったから
勢いよく湯船にとびこんだら
お湯があふれた
そして浮かべていたゴム製のあひるが
おとといこの家を出たあの男みたいな勢いで
わたしと入れ替わりにとびだした

デジャヴ、デジャヴ、デジャヴ。

喉元まで現実につかり
すっかりのぼせてしまったわたしは
床に転がったあひるに
なんとなく手を伸ばせなかった